自然と建築の融合 第3回「景観とスケッチ授業」

武庫川女子大学建築学部景観建築学科
教授 杉田 茂樹

大学の授業で風景のスケッチを教えています。武庫川女子大学建築学部では授業の一環としてフイールドワークを行っており、歴史的な建物、庭園、自然景観、街並みなどを見学、調査しています。見学、調査の後各自好きな場所を選んで2、 30分程度で簡単なスケッチを描きます。
学生にはまず「目で見たままの風景を描きなさい」と指導するのですが、これがなかなか難しく、手が動きません。短時間で描くためには風景の構成を素早く掴んで絵全体の骨格となる線を最初に描くことが重要です。ところが慣れない学生は細部から少しずつ描いてゆきます。早く完成させたいと思うあまり焦って、まずは描きやすいところを最初に描いて、それから余った時間で残りを描けばいいと思うのでしよう。これが命取りです。結局絵全体が歪み、つじつまが合わなくなつて、場合によっては描き直すことになります。
スケッチをうまく描くコツは透視図の原理を理解して最初に焦点を決めることです。まずは落ち着いて描きたい風景を正面から見て自分の目の位置を確認、用紙の上に一つの点を描きます。これを焦点といいます。次に風景の中から並木や建物の屋根など遠くに向かつて進む線を見つけて焦点に向けて放射状に線を引きます。この線が何本か描けるとこれを頼りに主な植物や建物、山並みなどの輪郭線を描きます。この一連の作業を最初にやっておけば、あと
は時間の許す範囲で細かい部分を描けばよいのです。
ここで多少間違えても絵全体の骨格は出来ていますから気にする必要はありません。かえって手描きの良さが出て個性ある絵に仕上がることもあります。要するに焦らす「急がば回れ」の精神です。これを頭で理解することはすぐできますが、手で描くためには訓練が必要で、スラスラと手が動くようになる
までには数年かかります。
大学院まで6年間スケッチ授業は続きます。毎年春は新入生と一緒にキャンパス内の甲子園会館を描いています。甲子園会館は 凹凸が多く細かな装飾が施された歴史的建築物で、初心者には相当手強い相手です。「先生、これメッチャムズイ、私もうアカンわ」などの叫び声ともに描いていた歪んだ絵も卒業する頃には美しい風景画に変わり、大学院を修了する頃には私を追い越して立派な設計者の作品となります。負けす嫌いの私は追い越されないように日々学生に隠れて練習しております。

武庫川女子大学甲子国会館のスケッチ (筆者作)

花緑センターだより(公財)兵庫県園芸・公園協会 花と緑のまちづくりセンター 令和4年12月 63号より