自然と建築の融合 第2回「景観建築:建築と造園の一体的な学び」

武庫川女子大学 建築学部 景観建築学科
教授 杉浦 徳利

「建築は庭を鑑賞するための腰掛けのようなものではないか。」これは建築計画・意匠設計を専門とする筆者の恩師の言葉です。建物を、庭を眺めるための腰掛けに喩えるほど、人間にとって、そして建築にとって、美しい屋外空間が一体的にあることが大切なのだと私は解釈しています。日本とヨーロッパでは建築の構成も自然観も随分異なるはずなのに、日本の寺院や離宮建築を見ても、イタリアのヴィラを見ても、この言葉が妙にフィットするように思えるのです。
建築と屋外空間のデザインは密接であるが故に、例えばアメリカ合衆国の大学では、建築学科とランドスケープアーキテクチャ学科が同じ学部に属することがほとんどです。しかし日本では明治期以来、それらの教育は、工学系の建築学と農学系の造園学に分離しており、双方に精通する設計者は希少です。また、様々な地球環境問題に直面する現在、自然環境に配慮した持続可能な都市づくりは待ったなしの課題です。
このような背景の下、筆者が所属する武庫川女子大学では2020年度から、建築学と造園学が融合した新しい教育をスタートし、これを「景観建築」と名づけました。実習・演習にスポットを当て、その取り組みについて紹介します。 学部1年生から大学院生まで、植物・緑化実習があり、学生は圃場で花や野菜などを育てます。また、キャンパス内の樹林で樹木をじっくり観察し、庭園管理の実習も行います。これらは建築系の学科としては異例のことですが、実地に植物と向き合い培われた知見に裏付けされたデザイン力を養うために重要な学びです。

1年後期から始まる設計演習は、全ての学びを統合する最も重要な授業として位置付けられており、建築と庭やオープンスペースなどの屋外空間を一体的に提案します。植栽計画図や植栽リストも作成します。下図の左上の作品は、修士課程1年生が共同制作した建築的要素と植物が融合したデモンストレーションガーデンです。今年度の「ひょうごまちなみガーデンショー」に出展し、景観建築の教育の成果を披露しました。

花緑センターだより(公財)兵庫県園芸・公園協会 花と緑のまちづくりセンター 令和4年9月 62号より