自然と建築の融合 第4回「自作の手ぼうき」

武庫川女子大学 建築学部 景観建築学科
教授 曽和 治好

大学時代に私は京都で造園学を学びました。そこで紹介していただいた庭師のアルバイトは驚きの連続でした。まず庭そうじの体験が鮮烈でした。「手ぼうき」という小さな竹製の箒(ほうき)を使って庭をそうじすると、スギゴケが絨毯のように綺麗になります。苔に頬ずりをしたくなります。「そうじは単純労働」と考えていた不勉強な私には衝撃的でした。道具、技術、段取り、分業、考え方、教養。どれを取っても庭師のそうじ技術には洗練された芸術性が有ったのです。「神は細部に宿る」。優れた芸術は細部こそ素晴らしいという意味です。日本の文化・芸術を代表する桂離宮庭園や金閣寺庭園などでは、建築・庭園が融合しています。小さな木の根元や、苔、飛石、洗砂利、園路など、隅々まで心を込めてそうじすることで、建築と庭が一体化し、美しい景観が際立ちます。このように、芸術的とまで言える細部への気遣いが、長い時間をかけて受け継がれ、美しい景観が育まれたのです。

自作の手ぼうき

手ぼうきは主に京都の庭師によって使われる25㎝~35㎝程度の長さの竹ぼうきです。庭掃除の仕上げに使われます。雨の日などに庭師は、乾燥した竹の小枝をたばねて、手ぼうきを自作していました。竹の枝を束ねて、節をそろえ、末を切り取る。こんなシンプルな作業で手ぼうきが完成します。長さや太さ、硬さなど、自身の手になじむ手ぼうきをつくることができます。しかも手ぼうき自体が美しい。素晴らしいとは思いませんか?私は日本の各地で手ぼうきや庭の芸術性についてレクチャーし、さらに手ぼうきを実際に作るワークショップを開催してきました。手ぼうきワークショップの参加者はマイ手ぼうきをつくって、すぐに自分の身の回りを掃除しようとしました。

手ぼうきの穂

ボランティア活動やオープンガーデンなど、都市環境を豊かにする緑化活動に取り組んでおられる皆様は、後片づけやそうじの作業に精通しておられる方が多いと思います。通常は、竹ぼうきや熊手、プラスチックの箕を使ったそうじが一般的でしょう。そうじを芸術的体験として楽しみ、また緑化活動を通して建築物や庭園が一体となった景観文化をより深く育むために、ぜひ皆さんも、竹の小枝を用意して、マイ手ぼうきを作ってみませんか?

世界竹会議で日本の手ぼうきを発表

花緑センターだより(公財)兵庫県園芸・公園協会 花と緑のまちづくりセンター 令和5年3月 64号より